104号室  高杉英司 『もーいーかい?』 いや、まだだ…。 『もーいーかい?』 ほんと頼むから…まだ寝かせてくれ…。 『もーいーかい?』 何度も寝かせろって言ってるだろ!?こっちは毎日毎日バイトバイトで疲れてんだよ! 『もーいーよー』 ……。 「うぅ…まぶし…てか、熱っ!!」 昨日はあまりにも疲れていたせいかカーテンを閉め忘れて寝てしまったようだ。 太陽がこれでもかというくらいサンサンとオレの顔を照らしている。 しかし、そんなことでへこたれるオレではない。自慢ではないがこんなことは日常茶飯事だからな。 とりあえずカーテンを閉めて、と。これでもうオレの安眠を妨害することは誰にも出来まい。 「さて、また寝るとするか…」 ……。 『もーいーかい?』 ……。 『もーいーかい?』 ……。 『もーいーかい?』 ……。 『もーいーかい?』 ……。 「だぁぁぁーーーもう!うるせぇ!!うるせぇ!!うるせぇんだよ!!さっきから『もーいーかい?もーいーかい?』ってよぉ! 馬鹿の一つ覚えみたいに同じ言葉ばかり繰り返してんじゃねぇよ! オレは眠いんだよ!寝たいんだよ!だから頼む…寝かしてくれよぉ…」 そう声の主に思いの限りを力任せにぶつける、というか後半から泣き寝入りになっているがそんなことを気にしてはいけない。 オレは寝たいのだ。そう、寝たい。疲れているんだ、オレは。 だからどんなことをしてでも今は寝かせてほしいのだ。 『みんなぁー!!なんかココへんな人すんでるみたいだからほかのとこであそぼうよー』 良し良し、良い心がけだ…って!変な人とはなんだ!?変な人とは!? 人を変人呼ばわりしやがって!これだから最近のガキは…。ん?最近のガキ? 「へぇー今でも自分から積極的に外で遊ぶ子供なんているんだなぁ」 ふと平常心を取り戻しゲームでもして遊んでばっかりいるんだろうと思っていたイマドキの子供たちの意外な一面に感心する。 「しかも、かくれんぼか。オレも子供の頃は良く遊んだっけなぁ…」 「もーいーかい?」 「まーだだよ」 「もーいーかい?」 「もーいーよー」 「よぉーし!あっ!ケンちゃん、みぃっけ!」 「あはは、やっぱりうしろにかくれてもみつかっちゃうかぁー」 「あたりまえだよーさぁーてと、みんなはどこかなぁ〜?」 ボクの目的はその辺のザコじゃない。そう、目的はカナちゃんだ。 幼稚園の頃から一緒で家も近所だったから凄く仲の良い友達だった。 でも、ボクは最近カナちゃんに友達以上の気持ちを持ち始めたような気がする。 これが『恋』っていう物なのかな?小学校1年生にして既に大人の感情を持ったのか、ボクは。 エイジ感激!…なんて馬鹿なこと言ってる場合じゃないな。カナちゃんを早く探さないと…。 「エイジ感激!」 とか言ってる場合じゃないな、うん。そうそう、カナちゃん! オレの初恋の相手だったんだよなぁ。勿論、告白なんて出来なかったけど…。 まぁ告白出来なかった、って言っても小学校卒業前にカナちゃんが引っ越していっちゃったからなんだよな。 しかし、今はそんな重要な時にこそ自分の想いを告白するべきだったと思う。 あの日のオレにもう少し、もう少しだけ勇気があれば…。 でも、懐かしいなぁ…。ちょっとあの日に戻ってみるかな…。 そんなわけでやってきました。我が母校。 お、イマドキの子供でも意外と外で遊んでるもんなんだな。何か本当に子供に戻ったみたいだぜ。 自然と笑顔になってくる。何か最近は忙しすぎて笑うことすらも忘れてた気がするな。 「ふぅー久しぶりに心までリフレッシュ!なんてか」 「あ、おにいちゃーん。ボールとってぇ」 ん?お兄ちゃん?オレもまだまだイケルってことか?ん〜? なんてくだらんこと考えてても虚しいだけだな、うん。さて、ボール、ボールと。 「はい、どうぞ。可愛いお嬢さん」 「おにいちゃん、ありがとー。そーれ、いっくよぉー」 しかし、今日はオレ信じられないくらい優しいな。いつもならボールが飛んできてもどっかに放り投げてるとこだが。 っていうか我ながらひでぇ奴だな…オレ、反省。心に余裕を持つことって大切だよな、うんうん。 「あ、あの…もしかして、エイジくん?」 「ん…?」 何だ、どこからともなくいきなり綺麗なねーちゃんが現れたぞ。 「エイジくんだよね?ほら、私、私、小学校の途中まで一緒だったカナ!覚えてないかな?」 「え…カナって、あのカナちゃん?」 マジかよ、こんなことってあんのか?初恋の相手が自分から現れやがったぞ。しかも、物凄い綺麗になっちゃって。 夢じゃないだろうな?そう思い、頬を引っ張ってみるが…? …痛い。普通に痛い。どうやら現実のようだ。 「あ、覚えててくれたんだ?嬉しいなぁ」 「当たり前でしょー!だって、オレさー今だから言えるけど、カナちゃんのこと大好きだったんだぜーあはははは」 久しぶりに会ったっていうのにその場のノリで地味にカミングアウトしてるじゃないか、オレ。馬鹿だな、馬鹿丸出しだな。 「え…?」 いや、そりゃあそうだわ、そりゃそうだよ。急に好きだったとか言われてもゲームじゃねぇんだから普通返答に困るって。 「いや!いやさ、それよりカナちゃんは何でここに?」 物凄い勢いで話題を逸らすオレ。必死だな。 「うん、何だか急に昔が懐かしくなっちゃってね。ここに来れば何か大切なもの見つけられる気がしたんだ。エイジくんは?」 「あぁ、オレもそんな感じ。何か急に昔に戻ってみたくなっただよね。あはは、戻れるわけねぇっつうの」 そんな感じで昔話に花が咲いた。あれから何時間カナちゃんと話していたかもいまいち覚えていない。 しかし、カナちゃんもオレのこと好きだったとはねーゲームみたいなこともあるもんなんだな。狭いねぇ…世の中ってもんは。 そんなこんなでオレは家路に着いた。体は疲れているが心は晴れ渡っている。たまにはこんな休みも良いんじゃない? え?その後のオレ?カナちゃんとはどうなったかって?そんなもん決まってるじゃない? 何も変わってないよ、毎日バイトバイトの日々を過ごしている。 実は両想いだったことがわかったカナちゃんとは連絡先を交換して、たまにメールするくらいだ。 ま、そんなもんだよ。現実ってもんは。そんなゲームみたいに上手くはいかない。 でも、あの日以来オレはまた良く笑うようになった。たまにはこんな休みも良いんじゃない?