107号室  佐々木正 ―どこかとおくで、かぜのふくおとがする ああ、またあの夢だ 頭の中のどこか冷めた/覚めた感覚がいつもの夢だと教えている 何度も何度も見ているのに 起きればそれを見たことすら忘れている いつもの夢だ いつもの悪夢だ ―ボクは、どこかのクニの、ヘイタイで、みたこともないような、テッポウをもって、ひたすら、はしっている まわりは、みわたすかぎり、すな うしろには、ボクのぶかの、つよそうなヘイタイたち ひとりは、あしを、ひきずって、ひとりは、ちからなく、てを、ぶらさげて、あとのにんげんは、うすぼんやりとして なんにん、いるのかさえ、わからない だれかが、さけんだ 「もうだめだ!おれたちはここでしぬんだ!こんなせいぎも、たいぎも、いみもないせんそうで!おれたちはしぬんだ!」 ぱん そのおとこは、いとが、きれたように、くずれおちる はしるのを、やめるわけには、いかない ねらわれている、だから、はしっているんだ 「もういやだ!こんなところでしにたくない!クニににょうぼうもむすめもまってるんだ!しにたくない!」 だれかが、さけんだ 「もういやだ!」「しにたくない!」 つられてなんにんかが、さけんだ ぱんぱんぱん なんどもなんども、かわいたおとが、かわいたすなに、あたらしい、しみをつくった なんども、くりかえされる、かわいたおと きがつけば、ボクのうしろには、だれもいなくなっていた すでに、てのなかに、テッポウはなかった 「もういやだ!だれもころしたくない!だれかがころされるのをみるのはたくさんだ!もういやだ!しにたくない!ころしたくない!」 めいっぱい、のどが、やぶれるくらいの、こえで、さけんだ ぱん むじひなおとが、むなしくひびいた― ふと目が覚める。 時刻はまもなく深夜3時。 なんだかひどく嫌な夢を見ていた気がする。 体中がだるい。 真冬なのに汗で服が重い。 とてもじゃないがもう一度寝る気にもなれない。 ・・・着替えよう。 ぼうっとした頭でTVをつける。 「―カ軍居留地で現地時刻本日正午ごろ大規模な戦闘が行われました」 映し出される一面の砂漠。 ボクは何故だかゾッとした。 じゃりっ くちの、なかに、とつじょあらわれる、すなの、かんしょく、さびた、てつのあじ どこか、どこかとおくで、かぜのふくおとがする