203号室  松山高宏 起きたら午後の2時だった。 経済学のレポートも出し終わったので、ひとまず今日はなにもすることがない。 テレビもこの時間帯は見るものがない。 それでも背に腹は代えられぬ、と電源を入れた。 「ばいこく堂」という腹話術の芸人が、自国の最新兵器の情報を敵国に売る大統領のコントをしていた。 全然おもしろくない。つけなければよかった。 ピンポーン 誰だ? 「いるー?」 なんだ、川島の声だ。 「カギあいてるよー。」 と返事をした。 どうも今日の川島は落ち着きが無い。 たしか、こいつも経済学をとっていたな。レポートを写させてくれとか言い出すんじゃないだろうか。 「あのな、松山君。」 ほらきた。 「俺なあ、あの、オバケを見ちゃったんだよ。」 「はあああ?オバケ?」 「オバケ」 「……」 笑わそうとしているのだろうか。 「え、何?幽霊とかじゃなくて?」 「幽霊じゃないよ、オバケだよ。」 「……」 怖がらせようとしているのだろうか。 「あ、そう、オバケね。はいはい…。川島、お前レポート書いた?経済学の…」 「本当に見たの!」 「オバケを?オバケってQ太郎的なやつ?」 「そう、それ的なやつ。」 「……」 ちょっとしつこいなあ。 「あのなあ、川島。オバケはないだろ。言葉的に古いよ。小学生か。」 「じゃあ今風に、O・B・K。」 「…ぜんっぜん今風じゃねえよ。」 「今も昔もないの!昨日見たの!」 「いや、だから、幽霊とかのほうがまだ信憑性あるじゃない。」 「U・R・A。」 「そういうのはもういいから。」 「昨日本当に見たの!」 …面倒くせえなあ。 「…どんなオバケだったの。」 「白くて、形はQ太郎っぽいの。んで、顔がフセインみたいなヒゲのおっさん顔で、」 「まてまて、聞き方が悪かった。どこでどんなふうに現れたとか、そういうの全部最初から話して。」 「ああ、うん。えっとね…」 昨日の夜の10時くらいかな。ヒマだったからとっといたカラスのとんかつ見ようと思って。 そしたらとれてなかったからさあ… 「ちょ、ちょっとまって。カラスのとんかつって何?」 「映画だよ。こないだテレ東でやってただろ?」 「え、知らねえ。」 「話のコシを折らないでくれるかな。」 「あ、…うん。(どんな映画なんだろ…)」 ビデオ屋に借りに行った訳よ。でも無いの。しかたねえから帰ったの。 そしたらその帰り道。あの肉屋の道のさ、ほら、橋あるでしょ。あそこに、なんか白いきぐるみみたいなのが立ってるのね。 俺は、「あ。肉屋の脂身キャンペーンのきぐるみかなにかだな」と思ってそんなに気にしなかったんだけど、 「まて!脂身キャンペーンってなんだ!」 「そういうのがあっても不思議じゃねえだろ!」 「不思議だらけだよ!」 「あの時は脂身のきぐるみだって、そう思ったの!」 「……」 そんで、気にせずに通り過ぎようとしたんだけど、なんか変なんだよ。 水を張った鍋を持ってるのよ。んでなんかブツブツ言ってるの。 キャンペーンのきぐるみが、鍋持ってブツブツ独り言。ありえないだろ? すごく気になって、近くで見てみたのよ。そしたらフセインみたいなヒゲのおっさんの顔が、Q太郎的胴体からニョキー!って出てきて、 『お前でダシをとろうか…それとも、お前でダシをとってやろうかぁ!!!』 って言ってガーッ!って追いかけて来て、あ、ゴメン、 『カツオでダシをとろうか、それともお前でダシをとってやろうか』だった。 「オーーーーイ!?一番大事なとこ間違えるなよ!興ざめだよ!」 「ゴメンゴメン。」 「あークソーやってらんねえ…」 「続き、続きがちゃんとあるから…」 ガーッっと追いかけられて、もう、すんげー怖いの。顔が。 俺も「ウワーー!!」ってなって、必死で逃げたんだけど、コケちゃって、あたふたしてたらむこうからジリジリ寄ってくるのよ。 ああー、もうダメだ、ダシをとられるー!って思ったら、俺のすぐ前でオバケがコケて、 鍋の水がザバーッって俺にかかったかと思ったら、オバケの姿がないの。 俺はビショビショ。怖くて10分くらいそのまんまだったんだけど、 ふと、カバンの中身は大丈夫かな?って心配になって、あけてみたら、もう全部グジャグジャなの。 んで経済学のレポートもベロンベロンになっちゃったから、松山君のを写させてくれると非常に助か… 「お前もう帰れ!!!」