303号室  藤村京吾 「ふぅ〜……」 ボクはダンボールなどが所狭しと置かれた部屋で溜息をついた。 今日はこの新居への引越しで朝から動きっぱなしだった。 ただでさえ、受験で忙しく体を動かす時間もあまりなかったので、体の節々が痛い。 ま、受験以前にもそんなに運動をする方でもなかったけど…… 両部屋の住人に引越しの挨拶も済ませて、次はどうするべきか…… 当然、荷物を一つ一つ紐解いて、整理していくべきだろうが、今はその気力すらも沸いてこない。 しかし、不思議と胸が高鳴っている。 やはり初めての一人暮らしということでだろうか…… ボクは疲れている体を起こし、ちょっと辺りの探検に出掛けた。 探検を終えたボクは、歩いている途中で見つけた弁当屋で夕飯を買って帰ってきた。 やはり知らない町というのはどこかミステリアスな感じがすると同時になんだかワクワクしてしまう。 そんなところに今日からまず四年間住むわけだ。 ボクは買ってきた弁当を早速食べようとした。 しかし、考えると一人で夕飯を食べるというのは初めてかもしれない。 つい昨日までは両親と妹と一緒にご飯を食べていたのに。 (一人で食べるのって、本当に静かなんだなぁ……) と、早くもホームシックだろうか? でもやはり体は意味もなく今だワクワクしている。 お腹が空いていた事もあり、ボクはがっつくように弁当を平らげた。 食後には、TVの配線や設置、勉強机の組み立てなど、とりあえずきついものからやり始めた。 夜遅くには、もう大きな荷物はほとんど無くなっており、残るは本や、CDや衣服といったものだけだった。 ボクはそれらを所定の場所へとせっせと収納を開始した。 しかし人間こういう事をしていると、どうでもいい物に目が留まりその作業が中断したりする。 引越しの荷造りをしている時にも、そういう事があったのにも関わらず、またやってしまっている。 その事に気がつき再び整理を始めた時には、既に日付が変りそうな時刻になっていた。 日付が変わって少し経った頃にようやくあらかた片付けが終った。 うっすらと汗をかいていたので、丁度良いと思いバスルームへと向かう。 ここのワンルームは結構豪華だ。 バス、キッチン、トイレは完備している事は勿論、最近流行りのユニットバスではないのだ。 ボクは、どうしてもトイレとお風呂が一緒になっているのはゴメンだったので、部屋探しは苦労した。 しかし今は、その苦労もなんのそのだ。 ボクは一人、新居の湯船で鼻歌を歌いながら今日の疲れを癒した。 バスタオルで髪の水気をふき取りながら備え付けの冷蔵庫から牛乳のパックを取り出して、満足行くまで飲んだ。 それから直ぐにベッドにもぐりこむ。 あれほどクタクタだったのにも関わらず、相変わらず心はワクワクしている。 ベッドに入ればすぐに寝れるかと思ったが、そうもいかないらしい。 明日からは今までとは違う。 掃除や洗濯、食事といった事を全部やらなきゃいけないのだ。 不安が無いわけではないけれど、きっと大丈夫だ。 (うん、大丈夫) 藤村 京吾、一人暮らしの初日はワクワクで一杯だった────