305号室  零 美雨 この国の、この街にやってきてもう四ヶ月が過ぎようとしていた。 私は部屋から見るこの街の景色が好きだ。 休みの日はこうして外をボーっと眺めている事が多い。 同じ祖国の台湾の留学生は見当たらず、どうやら留学生は私だけになったらしい。 むこうの学校で、日本への留学の話が舞い込んだ時、私はすぐに名乗り出た。 留学の話はあっという間に纏まり、すぐに日本に行く事となった。 そして私は現在ここにいる、という訳だ。 別に何か特別、目的があってこの国に来たわけではない。 だけど、一度祖国を出て他の国で暮らしてみたい、というだけの理由で留学を希望したのだ。 私が今住んでいる部屋には、生活に必要な最低限のものしか置かれていない。 テレビや、コンポといった娯楽ものはまったくない。 あるのは、箪笥、机、布団、電話、冷蔵庫、そしてミニサイズのサボテン。 生活する上で最低限のものしか置かれていない殺風景な部屋だ。 知らない土地での生活は大変な事も多いけれど、それでもこの四ヶ月は驚きと胸の高鳴りで一杯だった。 まだ、祖国へ帰るまでは一年と八ヶ月も時間はある。 そういえば、一週間ほど前からアルバイトを始めた。 アルバイトは学校での清掃作業やらの雑用だ。 そこで日本人の友達もできた。 たどたどしい会話をしながらも、どこが気が合ったのか、私が台湾語を教え、彼女が日本語を教える約束を交わした。 それからは学校で授業の合間をぬって、教え合っているうちに友達も増え始めた。 今は楽しく学校生活を送っている。 だからあまり心配はしないでくれ。 と、このような内容の手紙を書き終えた私は目一杯背伸びをした。 宛先は勿論、台湾にいる両親と友人たちにだ。 私は薄い水色の封筒に手紙を入れて糊付けをする。 そして、軽く身支度をすると手紙を出す為に部屋を後にして、郵便局へと向かった。