306号室  本上啓祐 俺は現在親元を離れ、一人でこの街で生活をしている大学生だ。 ちなみに学生結婚はしていない、子供もいない。 306号室で住んでいるのは誓って俺だけだ。 仮に他の誰が俺と同じような状況で生活していたとしよう。 そこにある日突然、バイトとかから部屋に戻ると子供が一人居た。 アンタならどう反応する? 「……誰だ?」 俺は何故か自分の部屋に入り込んでいる子供に声をかけた。 近所に住む子供が迷いこんだのだろうか? いや、しかし今さっき部屋に入る時は鍵を開けた。 子供はさきほどからにこにこしているだけで、俺の質問には答えない。 「坊主、どうやって部屋の中に入ったんだ?」 しかし、やはりこの問にも、にこにこしているだけで何も答えない。 その後もニ、三質問をしてみたが結果は全て同じだった。 これはどうするべきか、少し考える。 しかしよく見れば、子供の服装は現代人が着る服ではい。 一昔前の子供、ちょうど俺の親父が着ていたような着物風の服だ。 (親の趣味か何か??) 否、そんな事を考えても仕方が無い。 何を聞いても答えてくれないし、これは警察に電話した方が良さそうだ。 俺は携帯電話を取り出すと110番をプッシュした。 数分後に、中年と若い警官がやってきた。 が、事態は思ってもみない展開となる。 「……どこにも子供なんていないじゃないですか」 若い警官が部屋の中を見て、不思議そうな顔で言う。 「へ?何言ってるんですか、ここにいるじゃないですか」 俺は自分のすぐ傍を指差す。 そこには相変わらず、にこにこ顔をしたどこの誰ともわからない子供が。 「はぁ?何言ってるんですか、誰もいないじゃないですか」 「ちょ、ここに居るじゃないか!」 「いや、だからですね……」 と、中年の警官が若い警官を制止し、俺の足元の子供見る。 「ふむ、こいつには見えないで、私と君に見えているわけか」 「え?」 「岡さん?」 俺と若い警官は同時に中年の警官を見る。 「おそらくですね……」 数分後、警官たちは帰ってゆき、部屋には俺と子供の二人。 まったくもって信じられない話だ。 あの中年の警官は、この子供が座敷童だと言うのだ。 座敷童といえば、あの家の神様?だったか…… しかし、そういうのはもっと古い家に出るものではないのだろうか? こんな部屋にパソコンやオーディオ機器や、およそ電化製品に囲まれた部屋に座敷童とは。 若い警官はしきりに首を傾げていたが、それは俺も同じだ。 いや、むしろ悪戯や精神異常者として逮捕されなくて良かったと、喜ぶべきだろうか? 途方に暮れた俺はどうしたもんかと考えた。 が、よくよく考えると帰ってきてから何も食べていないので腹が減った。 俺はインスタントラーメンを作ると食べようとした。 「…………」 しかし、やはりあれから子供、もとい座敷童はにこにこしたままだ。 (こいつも腹減ってるのかな……) 手に持った箸を置き、ラーメンが入った丼を座敷童に渡す。 「食うか?腹減ってたらいいぞ」 しかし反応はかわらない。 俺は自分の分を作る為に、もう一度インスタントラーメンを作る。 ふと、振り向くとそこには座敷童の姿は無かった。 玄関や窓から出ていった、形跡も無い。 やはり本当に座敷童だったのだろうか? と、机の上にはラーメンが無くなっている空の丼と、小さな子供が書くような字でこうあった。 ありがとう────