307号室 真中聡史 「   僕の部屋 君と二人   君がそばに近づいてくる   僕の温もりが欲しいから               」 そこまで書いて、僕は鉛筆を置く。 また趣味のポエムに興じてしまった。 昼過ぎには帰ってきたのに、もう外は真っ暗だ。 一人暮らしを始めてから、誰もこの高尚な趣味を邪魔する奴がいなくなったおかげで、 今日みたいに時間を忘れてしたためる事が多くなったかな。 そろそろお風呂にでも入ろう。そう思い僕は机から離れると、お風呂の準備を始める。 じょぼじょぼと、お風呂のお湯が入る音が聞こえる。 今まで書いたポエムは20以上。でも、どれもまだ構想中だ。 書いてる途中で次々に新しいアイディアが浮かんできて、なかなか一つの作品を終らせる事が出来ない。 天才が故の悩みだと思う。 まあ、僕のポエムは世界の財産だし、いずれは名の売れた歌手にでも送りつけて歌わせてやろう。 それまでは誰にも見られるわけにはいかない。天才とは孤独なものだ。 学校でだれも話し掛けてこないのも、僕の才能にみんな嫉妬しているからだな。 馬鹿だなぁ。勇気を出して話しかけてくれば、僕は気さくに応じてあげるつもりなのに。 っと、お風呂の用意が出来た。 入浴中に誰か入って来るといけないから、玄関の鍵を閉めて、窓の戸締りを確認する。 いつもは星空が綺麗だから開けてるけど……窓のカーテンも閉めておこう。 大事な作品を外から盗撮されるかもしれないからね。 戸締り良し。 いやぁ、才能があると日々の生活も大変だなぁ。 にやつく表情のまま、僕はお風呂に入る。 僕はお風呂から出ると、ゆっくりテレビを観ていた。 しっかし、低俗な番組が多いなぁ。 よし、ポエムの続きを書こう。 僕はテレビを消し、机に向かうことにする。 なんだか頭が冴えている気がする。今日は一つくらい、終らせる事ができるかもしれない。 そう思ってイスに座ったところで、一つの違和感を感じた。 ボタンを掛け違えたことに気がつかないような。そんな違和感。 ……なんだろう? まあ、いいか。窓から見える星空は綺麗だし、絶好のポエム日和だ。 ……あれ? 僕のポエムがおかしいぞ? 「   僕の部屋 君と二人   君がそばに近づいてくる   僕の温もりが欲しいから   首にそっと両手をかけて   もぎり取るように僕の温もり                 」 僕はふっと顔を上げる。 カーテン閉めたはずの窓に映る、すぐ後ろにいる女。 長い髪とか、見えない顔とか、白い服とかそんなのが見えて、 その瞬間、 氷よりも冷たい手、僕の首にかかって。